「音楽著作権」のあらまし
❶「音楽著作権」とは、「著作権法で認められた、音楽著作物の利用を許諾したり禁止したりすることができる作曲者・作詞者等の権利(日本大百科全書)」と言われる。
なお、上記の「等」は「編曲者」を指し、「著作権法」は音楽著作物の権利保護に限定した法律でない。
さらに、音楽著作権にはその著作隣接権も含まれる。次の記事にて、❷「音楽著作隣接権」とは「著作物などの伝達を行った者に自動的に発生する権利」と言い、具体的には「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」とのことである。
音楽利用の必須知識!著作権だけど著作権ではない、著作隣接権とは? | 著作権のネタ
さらに又、演奏権、複製権や公衆送信権等の❸「支分権」もある。
BGM使用時の著作権は大丈夫ですか?著作権が問題となるシーンまとめ - Audiostock Tips
まぁ~、音楽著作権の全貌が複雑すぎて、一般人にとって解り難いところが多いようか。それは、元来の著作権者のみならず、それにかかわる利害関係人までにも権利を肯認するあまり、その権利の態様が多岐にわたると言うことになったためであろう。そのため、実際、当該行為が、音楽著作権侵害事例に該当するのか否かにつき、一般的には理解しがたい面が、何と多いことか。「ジャスラック」でさえ、すべての楽曲の管理を依頼されているわけでないようなので、なおさらのことになろう。
著作権侵害問題
昨今、「ジャスラック」が著作権使用料徴収強化を徹底させている中にあって、音楽著作権侵害として、喫茶店等内の「BGM」のみならず、「音楽教室」からも著作権使用料を請求する訴えを提起している実情から、音楽著作権侵害問題は現在進行形で、まだまだ未解決な部分がありそう。
https://blog.hatena.ne.jp/grk1/grk1.hatenablog.com/edit?entry=26006613510258306
理容店の無許可BGM「著作権侵害」 JASRAC勝訴:朝日新聞デジタル
練習の演奏でも著作権料? JASRAC方針を考える:朝日新聞デジタル
なお、損害賠償請求の法的根拠は、民法709条の不法行為責任(財産的損害又は慰謝料としての精神的損害)が問われる。
この点、音楽著作権の侵害有無問題について、次の各記事が参考になる。
これって著作権的に大丈夫? 17を疑問をJASRACにぶつけてみた! | DiGiRECO
(著作権侵害全般の解説記事)
著作権侵害(違反)をするとどうなる?9つの侵害事例と対策方法とは | トップコート国際法律事務所
音楽著作権侵害の判断手法について -「パクリ」と「侵害」の微妙な関係 唐津真美|コラム | 骨董通り法律事務所 For the Arts
以上の記事等から気になる点と言えば、著作権侵害の除外事由として、❶「引用」の要件を満たすこと、❷著作権侵害とならない範囲での使用。例えば、私的利用のための複製、営利を目的としない上演等である。さらに、❸70年の保護期間が切れた楽曲使用がある点である。
思うに、結局のところは、端的に、それが法的保護の対象となる「著作物」に当たるのか、著作権者に損害を生じさせているのかに尽きると思われる。その判断材料の一つのメルクマールとして「営利性」(金儲け目的による利得)があろう。難しいのは、営利性がなくとも(例えば、複製CD‐Rを隣人に無料配布する)侵害行為になりえると言う点である。
確かに、その隣人が当該CDを購入しなくなることから、著作権者に損害が生じたともいえなくはない。しかし、大量に配布するのでなく、何枚かを身内等に配布したぐらいで目くじらを立てなくてもよさそうに思われる。
むしろ、所謂「口コミ」等により、当該楽曲の認知度が増大し(宣伝効果)、その相乗効果として、著作権者に多大な利益をもたらす場合もある。そしてそれが機縁で、音楽の発展向上に資する貢献も考えられそう。
それから、「引用」についても、音楽等の学術・技芸の発展向上を考えると、余りにも厳格に捉えなくても良さそうに思われる。多少は、大目に見ても良い場合もあろうか?
著作権者がどこの誰だか判らないように引用しているという場合に限るべきである。
つまるところ、一番良くないのは、他人のものを自分の創作物のように取り込み、それによって、多大な利益を得ることが大問題である。
言わば、以前によく揶揄された「人の褌で相撲を取る」に類似する方式と言えるだろうか。
記念樹事件
記念樹事件は、東京在住の有名な作曲家同士の「音楽著作権侵害」(盗作問題)の有無を巡る民事訴訟事件である。卒業ソング「記念樹」が、CMソング「どこまで行こう」を模倣しているか、いないかということで争いになった事件である。
この事件の概略等について、次の記事が分かりやすく記述している。
記念樹事件は1998年に起きた著作権法に関する事件。裁判の争点や影響は? | ビズキャリonline
http://wwwc.dcns.ne.jp/~alttekit-c/TOPPAGE/copy-r/copyright2.html
(なお、この記事では、法律的には一小節であろうと書き写せば複製権の侵害となると言うも、もしそうであるなら、メロディの有限性に鑑みて、楽曲の創作は、ほぼ困難なものになろうか?巷の曲には類似例もあるような気がして、少し違和感もありそう。)
本件で問題となった論点は、❶類似性と❷依拠性の有無であり、「著作物性」は当然のことなので問題にならない。
著作者本人は著作権の一部「著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)」、音楽出版社は「複製権」を侵害されたと主張して、損害賠償請求をするべく東京地裁に訴えを提起した。
まず、前提として、記事用語のおさらいをすると、著作者人格権とは、創作者の名誉や作品への思い入れを守る権利で、財産的価値である著作権とは別個の権利。つまり、一身専属的権利である。そして、その内容としては次の権利がある。
❶氏名公表権(著作権法18条)、❷氏名表示権(同法19条)、❸同一性保持権(作品を他人に無断で使用されない権利。同法20条)、❹名誉声望保持権
複製権は、翻案権等と同じ「著作財産権」に分類され、著作権によって富を得る「支分権」である。
そうすると、作曲者本人は精神的損害賠償(慰謝料)請求を、音楽出版社は財産的損害賠償請求をしたことになろうか。これに対して、被告は、反訴原告となって、著作権確認請求反訴の訴訟事件を起こしている。
その結果は次のとおりである。
(1)東京地裁判決(平成12年2月18日)
❶ 原告らの請求をいずれも棄却。被告(反訴原告)が、楽曲「記念樹」の著作者人格権を有することを確認。
❷ 「双方主張及び裁判所の判断」抜粋の要約
両楽曲の同一性の有無の判断要素として、原告らは、音楽の四要素(旋律、和声、伴奏、形式)の内、メロディを重視すべきと主張する。
他方、被告は楽曲の同一性はメロディの類似性のみをもって決定されるものでなく、曲全体の雰囲気や形式、和声等を総合考慮して判断すべきとする。
依拠性について、被告の主張は「どこまでも行こう」が「米国のケアレスラブ」とほぼ同一である。しかも「涙くんさよなら」「モーツアルトの子守歌」「ステンカラージン」ともメロディが一部似ている。よって、「どこまでも行こう」の曲(慣用句的音型の連続)を知らなくても創作は可能と言う。
そこで、判断すると、一方はCMソング、他方はポピュラーソングで、メロディを第一に考慮し、併せて、和声、拍子、リズム、テンポも勘案すべき。
検討の結果、一部に相当程度類似するフレーズが認められるも、メロディの全体的な同一性は認められない。個々的具体的な和声も異なる。拍子も2/2と4/4とでアクセントが異なる。
以上から、両者の曲には同一性がない。
(2)東京高裁判決(平成14年9月6日)
❶ 原判決を変更。被控訴人は控訴人(作曲者)に対し、金600万円等支払え。被控訴人は控訴人(音楽出版社)に対し、金約340万円等を支払え。
❷ 「裁判所の判断」抜粋の要約
著作権法上「編曲」の定義はない。しかし、編曲権を判例として容認し、その成立要件は、楽曲の表現上の本質的な特徴の同一性(類似性)と依拠性に着目して編曲権侵害の成否を検討。まず、表現上の本質的特徴を基礎づける主要な要素に重点を置き、とりわけ、旋律が主要な地位を占める。
旋律について、72%で同じ高さの音を使用、各フレーズの最初の3音と最後の音がすべて共通、起承転結(構成)が酷似等、そして、依拠性については、「どこまでも行こう」が著名な楽曲、両曲が酷似、被控訴人がこれを聴いた客観的事情がある。
以上から、両曲には同一性があり、かつ依拠性もある。
(3)最高裁の上告不受理決定(平成15年3月11日)により、当該事件は確定
両判決への雑感
それにしても、控訴審の東京高裁判決では、「意見書の提出」が引用されているのが目立つ。事後審であるので、その後に提出されたのであろう。今回の事案は、一審・二審の下した両曲の同一性判断が真反対の結果になった。それだけ、原曲か編曲かの区別の難しさを感じざるを得ない。
言われてみれば似ているが、言われなければ別物のような両曲であったようか。そうすると、今回の訴訟事案は両者のいずれが正しくて、間違いであったということは、一般論として言えないであろう。これも、法的決着がついた上での結果論でしかないだろう。
思うに、今回の単純な曲は旋律は言わずもがな、楽曲構成を重視すべきように思われた。その点、両曲に下された高裁判決内容には、異論がないよう。
なお、依拠性の点については、老若男女誰もが知っているであろう有名な曲だったか、否かの判断については、有名でない曲の盗作は依拠性がないという判断になりやすくなろう。そもそも、依拠性は主観的判断のところがあり、盗作者に「知らんがな!」と言われれば、依拠性がないということになりやすい。
音楽著作権侵害問題考~卒業ソングの名曲「記念樹」が聞かれない(1)~ - 「余所(ヨソ)事でない」ブログ日記
おわりに
今回、以前良く聞かれた卒業ソングの名曲「記念樹」がなぜ聞かれないのかを、調べてみた。すると、上記のような事情があったなんて、知らなかった。
それにしても、構成を変えるか、何か特徴的な付加的な旋律があれば、少し似ていようが、両曲には同一性がないと判断された可能性もある。残念なことであろう。
依拠性はあっても、同一性がなければ、著作権侵害には当たらないはずなのに。
ところで、今回の東京高裁の判決は、「編曲権」に関して、まさに記念となるべき画期的な解釈であった(編曲とは、既存の著作物である楽曲に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原曲の表現上の本質的な特徴を直接感得できる別の著作物である楽曲を創作する行為をいうものと解するのが相当である)。
最後に、今日は雨なので、掲載する写真がない。そこで、作夜飛行していた「全日空機」の写真を掲載して、記事を終える。
(追記)
2月28日、晴れのち曇り。
東京地裁、ヤマハ等の音楽教室団体等(全国約250)が訴えた楽曲演奏の著作権使用料徴収不可への確認請求を棄却。
「音楽教育を守る会」の徴収反対署名(57万名)の願い敵わず!(>_<)
「音楽教室の楽曲も著作権の使用料必要」教室側敗訴 東京地裁 | NHKニュース